牧師さんのノート06: 「パソコンが初めてしゃべった」




 私は矢板ホーリネス教会の牧師、田中敏信です。
今回は、「パソコンが初めてしゃべった」というタイトルをつけてみました。

 私が中学1年生のころだったと思うのですが、テレビ番組で「コンピュータの声」を紹介する番組を見たのを覚えています。
 人間の喉と口に似た実験装置を作り、エアーポンプで空気を吐き出すようにする。喉の中には人間の声帯と同じような部品を組み込んでおき、空気の流れによって振動させて音をだす。コンピュータを使って、喉の長さと口の形とを変化させて、声のような音を出す。
といった実験装置でした。

 なんとも表現が難しい、「これが声と言われれば、そうかもしれないけれども・・」という音でした。
実験をしておられた方々には申し訳ないのですが、「お豆腐屋さんのプー・ピー」というラッパの音がありますね。その音程をうんと低くしたような音なんです。「ボアァ」「ボイィー」「ボウゥー」という音。「これで、あ・い・う・・。そういわれればそうかもしれないなあ・・」と、首をかしげながら聞きました。
でもあのころが、「コンピュータがしゃべる」という、時代の幕開けだったんでしょうね。

 コンピュータがマイクロコンピュータ(マイコン)になって、それがパーソナルコンピュータ(パソコン)と呼ばれ始めたころです。目の見えない先輩達が、「パソコンをしゃべらせよう」と挑みました。なんの音も出ないパソコンのキーボードで、文字通りブラインドタッチでプログラムを打ち込みました。最初に出した音は、モールス符号です。「ぴぴー・ぴーぴぴぴ・ピーピピーピ・ピーピピ・ピ」というように、A・B・C・D・Eのキーを押した事が、そのたびに「モールス符号で聞こえる」ようにしました。
 次は、パソコンの後ろにケーブルで接続する形式の「音声合成装置」を使って、パソコンをしゃべらせるようにしました。モールス符号でパソコンの画面を聞きながら、アセンブラというコンピュータプログラミングの言語で、音声発声ソフトが作られました。別の所では、目の見えない人達が中心になって会社を作り、音声ワープロも開発されました。1980年代の末です。

 ちょうどそのころ、私は東京聖書学院の卒業を前にした、「牧師のインターン生」でした。3年間、聖書や神学を勉強した後で、1年間「牧師のインターン」をして卒業。でも卒業するためには、「卒業論文」を書かなければなりません。1枚当たり800字のレポート用紙で80枚書かなければ、受けつけてもらえません。
 聖書学院の講義の中の、短いレポートや試験の答案は、家内に代筆してもらいました。私が点字で書いたレポートを読み上げ、家内が傍でレポート用紙に書く。鉛筆で書いている時にはそうでもないのですが、ボールペンで書いている時は・・・。
 「あっ。さっき書いてもらった『ペテロが考えた』という所だけれど、『パウロが教えた』に直してくれないかい」
 「えっ。さっきここは『パウロ・・』から『ペテロ・・』に直したよ。また!『パウロ・・』にするの!」
 「・・・・」
なんて事、たびたびなんですね。もしもこんな事を「800字×80枚」で繰り返していたら、私達夫婦は「ついに破局か!」という所だったかも知れません。しかしその時に伸ばされた「神様からの救いのみ手、音声ワープロ」・「暗やみの中に歩んでいた民は大いなる光を見た」(ずいぶん大げさな牧師さんだねえ)

 宅配便がとどきました。ダンボール箱が合計4つ。パソコン・プリンタ・音声装置と音声ワープロソフト、それに私にも必要なのか?「ブラウン管ディスプレイの箱」の合計4つです。
 カセットテープに録音された、取り扱い説明がついています。それを聞きながら、パソコンをセットアップ。プリンタや音声装置、そしてディスプレイをケーブルで接続し、パソコンの電源コードをコンセントに。
 さて、いよいよ「音声ワープロソフト」をパソコンにセットします。フロッピーディスクが2枚です。ディスクをパソコンに差し込んで、電源On。ディスクがカチ・カチ」と回り始めます。当時のパソコンには、ハードディスクは入っていなかったんですね。
 待つこと1分。「音声ワープロ・・サイズA4」なんて声が、音声装置から聞こえて来るではありませんか。思わず頬が緩みます。
 早速キーボードから何か打ち込んでみます。「ABC」「こんにちは。田中です・・」全部音声できこえます。うきうきします。
 カーソルキー(移動キー)を押して、カレットの位置を動かしてみます。書き込んだ文字を、確認できます。「どれどれ、漢字は間違っていないかな?」大丈夫です。「たんぼの た」ちゅうしんの ちゅう」と、説明もしてくれます。
 次は印刷。当時はドットインパクト形式のプリンタでしたから、「ビビーン・ビビーン」という音がして、書いた文章が印刷されます。
 プリンタを覗き込んでいた家内が、「わぁ。ねえ、きれいに書けてるよ」と、嬉しそうです。

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